東北の秀峰 鳥海山と蔵王山に登る
(1996年8月)
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鳥海山 |
蔵王熊野岳 |
芭蕉も訪れた景勝の地、象潟へ
8月5日(月) 自宅 6:45 → 10:00 赤城高原SA → 11:50 越後川口 → 12:45 新潟 → 14:00 村上 → 17:15 象潟 たつみ寛洋ホテル
7月初めに腰を痛めて夏休みの山行計画策定が遅れた。痛みも治まってきた行先を決めたのは8月3日だった。象潟の旅館の予約が取れたので、鳥海山に登り、翌日蔵王に回ることにした。列車の指定席を取るのも面倒なので車で行くことにした。
8月5日の月曜日、朝食を取ってからマイカーで自宅を出発した。関越道にはいって赤城高原SAでソバを食べた。昼前に越後川口SAで二度目の休憩。関越道の終点である新潟亀田で下りると、後は国道7号を北上した。高速道に比べて一般道は格段に時間がかかる。村上から鶴岡までが想像以上に長かった。うんざりしながら運転するが、適当な休憩場所も見付からず、海岸沿いを走ったり、羽越線と併行して走る。やっと酒田まで来て、最上川を渡った所で左側に明日予約しているビジネスホテルの看板を見付けたのはラッキーだった。遊佐西浜のコンビニでブロックアイスを2個購入、クーラーボックスに補充した。象潟にはいってガソリンを補給。530Km走っていた。港の方を回って宿を探したが見付からず、象潟駅の案内所で場所を聞いたら、すぐ近くのJRと国道の間にあった。宿に着いたのは5時15分だった。
たつみ寛洋ホテルは外観はホテル風だが案内された部屋は和室だった。窓から鳥海山が見えた。最高のウエルカムサービスである。透明な温泉に浸かり長いドライブで固まった身体をほぐす。夕食は宿自慢の料理が15品も並べられた。名物の天然岩カキが特に美味かった。大ぶりの殻付き岩カキが二つ、レモンを垂らして口に含むと濃厚で甘みがあった。カキ飯もよかった。象潟で捕れた新鮮な魚も美味かった。約1時間かけてあらかた片付けたが、ちょっと食い過ぎで後が辛かった。
学生時代から憧れていた鳥海山に登る
8月6日(火) ホテル 5:10 → 6:00 鉾立駐車場 → 7:00 サイの河原 → 7:35 御浜小屋 → 8:00 八丁坂鞍部 → 8:35 七五三掛分岐 → 10:10 鳥海山(新山 2236M)山頂 → 10:35 御本社 昼食 11:10 → 13:25 サイの河原 → 14:25 鉾立駐車場 → 16:00 酒田 ホテルヤマダ
4時半起床。窓を開けたら外はもう明るくなっていた。5時10分、フロントに置かれた朝食弁当をザックにいれて車へ。気温が低いのか窓ガラスは水滴で濡れていた。羽越本線の踏切を寝台特急鳥海号が通過していった。鳥海有料道路(ブルーライン)にはいり秋のように澄んだ空の中を登ってゆく。前後に車なし。35分ほどで鉾立駐車場に着いた。広い駐車場に数台の車が駐まっていた。早朝の冷気に鶯の声が響く。昨日のテレビで鳥海山で遭難騒ぎがあったと報じていたので、登山届はちゃんとポストにいれておいた。
コンクリート階段の散策路を通って展望台の下を通り過ぎ、左側の遥か下まで切れ落ちた奈曽渓谷を覗く。なだらかな高原の傍らにこんな深い谷があるのは驚きだった。「白糸の滝」は単に細い沢のように見えた。間もなく岩石帯となる。2M幅の岩を敷き詰めた道が続く。とても歩きやすい。名残のニッコウキスゲが咲く草原は北アルプスの太郎小屋手前の斜面を思い出す。1ピッチで雪渓に出合い、サイの河原に出た。名前に似つかわしくない明るい草原だ。雪渓の脇から水が流れ出てくる。気持のよい所なので昼飯にする。宿の弁当を開くとお握りが3個、モモ、プリンにヤクルトが付いていた。握り飯を頬張ると中にイクラがはいっていた。さすが料理自慢の宿の弁当だ。こんな立派な弁当は初めてだった。登り、下りの登山者がポツポツと通り過ぎてゆく。年輩の人が多い。
そこから25分程で御浜小屋の前を通過した。すでに宿泊者が出払った小屋は静かだった。正面に鳥海山の荒々しい山頂部が見えてくる。右下に火口湖「鳥ノ海」がひっそりと佇んでいる。明るい御田ケ原から黒い壁のような外輪山を見上げる。そこから少し下って、八丁坂の登りにかかる。外輪山の端に取り付き、七五三掛(しめかけ)で千蛇谷コースと外輪コースの分岐に出た。外輪山の荒々しい稜線に怖じ気づいて、千蛇谷コースを選んだ。千蛇谷に下り、雪渓の左横の道を登ってゆくと、雪渓の真ん中を下りてくる登山者がいた。外輪山の稜線を歩いている人がコールして手を振っているのが見えた。50分歩いたので休憩し、トマトを食べた。千蛇谷は蛇がウヨウヨいるのかと思ったが、頂上直下まで昇っている雪渓の形が大蛇のようだということらしい。蛇とは無縁の気持のいい雪渓だった。沢を登り詰め、荒神岳の裾を回って、溶岩を敷き詰めたつづら折りの道を登って御本社に着いた。本峰と外輪山に囲まれた基地のようなほっとする場所だった。
ザックをデポしてカメラだけを携え新山に向かう。山容は一変して累々と巨岩が積み重なる急峻な岩場だった。岩に付けられた白ペンキの矢印に従い、両手両足を使い慎重に攀じ登る。大きな岩を無造作に積み上げたようなドームがどのようにして形成されたのだろうか。「胎内」と名付けられた岩の亀裂の下を潜り抜け、さらに岩を越えてようやく2236Mの絶頂に到達した。先ずは写真を数枚撮ったが、山頂標識は山名を記した木の板が置かれているだけだった。周りに幾つもの突起があってどれが一番高いのかもよく分からない。狭くて足場も不安定な頂上に次々と人がやってくるので早々に引き上げた。下り始めてから山岳展望を十分行ってこなかったことに気が付いたが後の祭だった。御本社まで戻って休憩、残りの握り飯を食う。
下りは外輪山コースを通ることにした。千蛇谷を囲む火口壁をトラバース気味に登ってゆくと日影に可憐な花がひっそり咲いていた。稜線の鞍部に向かって取り付けた鉄梯子を登って外輪山の稜線に出た。そこからは意外に穏やかな稜線歩きだった。涼しい風が心地よい。今回は麦藁帽子を被って正解だった。日焼け止めを塗らなかった腕はジリジリと焼かれていた。尾根道の2メートルくらいの段差を前向のまま下りようとして足が滑り右肘を擦りむいた。千蛇谷コースはどんどん高度が下がってゆくのに外輪山コースはあまり下がらず高度差が開くばかりだった。最後は一気に急降下するのだろうと覚悟したが、思ったほどでもなく見晴らしのよい稜線をゆっくり下って千蛇谷コースと合流した。カンカン照りの中、御田ケ原への登り返しにふうふう喘ぐ。鳥ノ海に雪渓の水が流れ込む音が聞こえてくる。御浜小屋近くでハイマツの切り株に足をぶつけて右臑に擦り傷を負った。ズボンを上げて見ると血が滲んでいた。軽い怪我で済んだが2度もミスしたのはショックだった。サイの河原で大休止。フルーツの缶詰を雪解け水で冷やした。シュルンドの下から掬った水は冷たくて美味かった。冷えたフルーツが最高だった。最近は休憩する度に何かしら口にいれている。それも山の楽しみの一つになっている。
最後の石畳の道は硬過ぎて踵が痛くなった。左膝も痛くなり、雨飾山の苦しい下山を思い出した。暑さとトレーニング不足でヘロヘロになって何とか駐車場に辿り着いた。車の中はサウナのように熱い。クーラーボックスから冷えたコーラを取り出しゴクゴク飲んでやっと人心地ついた。眼下に広がる緑の水田と松林と日本海、鳥海山の豊穣な山麓に見とれる。学生時代に春スキーのメッカとして憧れていた鳥海山。東北の山に登ったときいつも眺望を楽しみにしていた鳥海山。八甲田にスキーに行ったとき羽越線の車窓から見上げた夜明けの鳥海山。念願だった登頂を果たし満足感が沸々と湧いてきた。
車に乗って約1時間で酒田市のホテルヤマダにチェックインした。バスタブで身体を伸ばしてさっぱりし、6時まで仮眠した。近くの焼き肉屋でカルビ、ロースをたっぷり食べた。野菜スープも美味かった。せっかく酒田に寄ったので酒田市をぶらっと散策してみようと思った。タクシーに乗って酒田駅に行き、付近を歩いてみた。人口10万人、山形県第2の都市だが、予想に反して人通りも少なく、パチンコ店だけが目立つ駅前通りだった。
ホテルは前金5700円、シャンプー、歯磨きセットが有料で、テレビもない泊まるだけのホテルだった。
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旅館より鳥海山を望む |
鳥ノ海 |
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山頂を見上げる |
山頂の標識 |
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山頂は岩だらけ |
千蛇谷雪渓 |
蔵王連峰最高峰の熊野岳には誰もいなかった
8月7日(水) ホテルヤマダ 6:00 → 9:30 蔵王ハイライン駐車場 → 10:15 熊野岳避難小屋 → 10:30 熊野岳 → 11:20 駐車場 → 18:30 自宅
鶴岡から国道112号で山形に向かう。朝日に向かい谷間の道を走る。月山の麓を通り、寒河江市を抜け、山形市内にはいって蔵王への道を失った。当てずっぽうに走っていると国道13号に出た。しばらくすると蔵王温泉への標識があった。やれやれと標識に従って走っているとスキーに来た時に見覚えがある大きな鳥居を潜り蔵王温泉に出た。温泉街を過ぎてエコーラインを刈田峠に向かうが、道はどんどん下がってゆく。心配になるほど下って、上山からの道と合流し、ようやく登り始めた。なだらかな高原に付けられた道を右に左に曲がりながら高度を上げてゆく。観光バスに先を塞がれ後続車数台が団子になって続く。刈田峠から蔵王山頂迄は有料道路(蔵王ハイライン)になっていて、短い距離だが510円徴収された。頂上駐車場には観光バスが10台近く駐まっていて観光客で溢れている。
サブザックにペットボトルとトマトだけをいれて出発。付近を蔵王山頂と称しているが正確にいえば刈田岳の頂上直下である。観光客の領分である刈田岳はパスして早足で熊野岳に向かう。茫漠たる砂礫の山稜は幅広い馬の背状で、左右の眺望はすこぶるよい。眼下に見える「お釜」の景観は蔵王を代表する名所だが確かに一見の価値はある。お釜の横を通り過ぎると程なく分岐標識があった。直進は避難小屋、左ば熊野神社とあった。どちらが熊野岳山頂に近いのか分からなかったが直登することにした。赤茶けた礫地の道はそれほど急ではないので足早に登って行くと山頂部の東端にある避難小屋に着いた。左の山頂へ向かうとサッカーグラウンドが幾つも作れそうな平地が広がっていた。奥の方に見える熊野神社を目指して歩いた。熊野神社は立派な祠だった。その先に熊野岳の立派な山頂標識があった。遮るもののない全方位の展望が得られた。遥か北にうっすらと鳥海山が見えた。北西に月山、西に朝日連峰、西南に飯豊の山並みが霞の上に浮かんでいた。いずれも白い雪渓を抱えている。南に黒いシルエットで吾妻連峰も見えた。この広い山頂には誰もいない。観光客で混雑していた刈田岳からわずか1時間でこれほど静かな山頂を占有できたのは幸せという他はない。スキーで登った地蔵岳まで緩やかな尾根が続いている。蔵王の峰々はどこからでもスキーで滑れそうに見えた。
登山とはいえないような短い山歩きだったが、十分満足して下山した。車のエンジンを掛けて冷房をいれる。助手席の前に置いたクーラーボックスから冷たい飲料を飲んでほっとした。今年もクーラーボックスが活躍した。昔、魚釣り用に買ったものだが、車での夏登山では必携のツールになった。熱中症予防にも役立っている。
昼前に刈田岳の駐車場を出発し、宮城県側に下り、東北道にはいった。長いドライブだった。FMで音楽を聴きながら制限速度で走った。途中、国見SAで昼食を取り、矢板SAで休憩、蓮田SAでは給油をして、午後6時半に自宅に帰り着いた。
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お釜 |
地蔵岳を望む |
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だだっ広い熊野岳山頂 |
山頂の標識 |
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