2度目の九州 阿蘇山、祖母山、九重山へ
(1997年9月)
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阿蘇最高峰の高岳 |
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尾平より祖母山を仰ぐ |
中岳より久住山を望む |
Kさんより9月の連休に九州か北海道の山に行こうという話があった。北海道の山は9月になると雪が降ることもあるので、九州に行くことにした。旅行代理店でANAの「九州自由自在」というパンフレットを見付け、それを利用して阿蘇山、祖母山、九重山を回る計画を立てた。Kさんは特に「百名山」に拘りはないだろうが、私の方がいつも「百名山」を優先している。何もいわずに付き合ってくれるKさんに感謝である。
阿蘇山、巨大なカルデラに驚嘆
9月20日(土) 自宅 5:30 → 7:40 羽田空港 ANA641便 → 9:30 熊本空港 → 12:10 仙酔峡 → 12:15 ロープウェイ山麓駅駐車場 → 12:30 ロープウェイ山頂駅 → 13:10 中岳 → 13:40 高岳 14:10 → 15:35 ロープウェイ山麓駅駐車場 → 17:05 高千穂町 大和屋旅館
息子に羽田空港まで送ってもらった。Kさんと落ち合い新滑走路に駐機しているANA機に搭乗、離陸待ちで20分遅れて離陸。少し気分が悪いのでシートベルトを少し緩める。広島を過ぎて間もなく海の中に飛び出した飛行場が見えた。帰りに利用する大分飛行場のようだ。熊本空港には10分遅れの9時30分に到着した。手荷物受取で時間がかかり、レンタカーのカウンターにはかなりの行列ができていた。結局レンタカーに乗ったのは11時過ぎだった。車はホンダのインスパイアだった。ハンドルが軽く、シフトレバーの操作がマイカーと違うので最初は戸惑った。車まで案内してくれた新人らしい女子職員に仙酔峡への道を聞いて、その通りに走り始めると、行先の案内標識は「南阿蘇」となっていた。私がロードマップを見て決めていたのは阿蘇山の北側を通る道だったが、反対に南に向かっているようだった。Uターンするのも面倒なので、反対回りでも行けるだろうとそのまま進むことにした。するとだんだん上り坂になって、左手に阿蘇山が大きく見えるようになった。箱石峠を越えて下って行き、坂梨の交差点で左折して熊本方面に向かった。しばらくして「仙酔峡」への案内標識があった。大分遠回りしたようだが、気を取り直して坂道を登って行くと「仙酔峡ロープウェイ」の駐車場に着いた。広い駐車場は閑散としている。歩くつもりだったが到着が予定より遅れたのでロープウェイに乗ることにした。急いで支度をしてロープウェイに乗り込み約10分で山頂駅に着いた。
コンクリートの遊歩道を火口東展望所に向かって歩き始める。途端に硫黄の臭いが漂ってくる。中岳の赤茶けた岩を見上げながら幅広い遊歩道を10分ほど登ると火口壁の展望台に着いた。週末にしては淋しい位の観光客が巨大な火口からモクモクと立ち上る噴煙を見て歓声を上げていた。左に中岳の案内標識があり、火口壁に沿って登り始める。ここからは登山者の領域で観光客はいない。歩き始めて40分で中岳に到着した。中岳の噴火口の深さと大きさに驚く。
続いて高岳に向かう。2つのコブを越えて、岩に付けられた白ペンキに導かれ、岩屑と砂礫を踏みしめて登って行くと、岩を小高く積み上げたような高岳山頂に着いた。阿蘇山の最高峰である高岳の周辺はなだらかで気が休まる所だった。東西18Km、南北25Kmといわれる阿蘇の広大なカルデラは明るく穏やかであるが、中央火口丘である中岳、高岳の周辺は荒涼とした火山帯地で、過去にあった巨大カルデラ爆発のことをつい考えてしまう。噴火による火砕流は周囲200Kmに及んだというから凄まじい。まあ考えても仕方がないことだから、ガスバーナーで湯を沸かしカップヌードルに湯を注ぎ、この世のものとも思えぬ光景を眺めながら食べた。
帰りは仙酔尾根を下りようかとも思ったが、時間の余裕もないので来た道を引き返すことにした。ロープウェイ山頂駅まで下りてきて、さすがにロープウェイは使わないことにして、ロープウェイ沿いの遊歩道を歩き始めた。尖った石が並べられただけの道になり歩きにくいことこの上なしだった。
駐車場に戻り、今宵の宿のある宮崎県の高千穂町に向かう。来た時の道をもどり国道325号で高千穂へ。信号もなくほとんどノンストップで走れる曲がりくねった山の中の道だった。約70Kmを1時間半で高千穂町に着いた。市街は車が多く、旅館を探すのに苦労したが、国道沿いに3階建ての和風旅館大和屋を見付けた。駐車場は30メートル先の反対側にあった。受付を済ませ、屋上に継ぎ足した「展望風呂」に一番乗りではいってさっぱりした。
夕食時に何となく調子が悪く、ビールはグラス1杯に止め、食べるのも控えめにした。10時頃就寝したが、胸のあたりがもやもやとしてよく眠れなかった。
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中岳山頂 |
巨大な噴火口 |
神話の里の奥深い山、祖母山
9月21日(日) 旅館大和屋 5:15 → 6:30 尾平駐車場 → 7:35 サマン谷 林道終点 → 8:05 2合目 → 9:22 6合目 宮原 → 9:48 前ノ背 → 10:30 9合目小屋 → 10:50 祖母山 11:50 → 12:40 宮原 → 13:50 サマン谷 → 14:40 尾平駐車場 → 16:50 筋湯観光ホテル
夜明け前の高千穂市街をゆっくり抜けて、天岩戸神社方面への道を探しながら走って行くと、案内標識があったので岩戸川を遡る横道にはいる。しばらく進むと赤ランプが点滅する表示板が「通行禁止」になっていて、「土砂くずれにより大型車通行禁止」の看板があった。大型車ではないのでほっとして先に進む。天岩戸神社までは2車線の道路だったが、その先は1車線になった。それでもかなり上流までバスの停留場があった。ひたすら右へ左へハンドルを切って1時間で尾平越トンネルの入口まで登った。トンネルを通り抜けるともったいない程下って、尾平の2〜30台は駐まれそうな立派な駐車場に着いた。5台駐車していた。ここで朝食にする。宿の弁当の包みを開くと経木に包まれた大きな握り飯が2つはいっていた。大粒でカリカリの梅干しがはいっていた。卵焼きはコレステロールが気になるので手を付けなかった。医者にはそろそろ薬を使ったらといわれているのだが。
腹ごしらえをすませ出発する。空は曇っているが雨の心配はなさそうだ。ススキの伸びた原を行くと左に赤茶けた鉱滓が山のように積まれていた。近くに鉱山があったようだ。前方に祖母山から障子岳への峻険な稜線が壁のように立ち塞がっていた。川上渓谷の川原に下りると吊橋があり左岸に渡った。小沢を渡って急坂を登り始める。トップのKさんがゆっくりと登るので心臓が苦しくなることもない。40分程登ると林道に出た。しばらく林道を歩きプレハブの小屋があるサマン谷に着いて休憩する。「サマン」というのは不思議な名前だ。サマン谷は沢登りで人気があるらしい。
サマン谷に掛けられた丸太の橋を渡り、急登する。緑したたる樹林のしっとりとした道だ。大分登った頃に2合目の標識があった。林道に出た所が1合目だったから、「えー、まだ2合目なの」とKさんがぼやいた。たしかに30分以上歩いてきて1合目しか進まないなら頂上まで後4時間くらいかかることになる。先憂後楽の里程表示もほどほどにして欲しい。途中1回休憩をいれてようやく主稜線上の宮原(みやばる)に出た。ここまで2時間37分かかり、コースタイムを7分オーバーしていた。最近休憩時間を含めてコースタイムで歩くのは難しくなってきた。
宮原からは尾根歩きになり多少上り下りもあるが比較的ゆるやかな登りだった。熊笹を掻き分け休憩場所を探しながら進むと前の背に出た。痩せ尾根の岩の上だったが眺望がよいので休憩した。祖母山が大分近くに見えた。
馬の背を過ぎると9合目小屋が見えてきた。ダケカンバの明るい林を登って行くと道端にイワキキョウがひっそりと咲いていた。小さな花に疲れを忘れる。9合目小屋は新築の立派な小屋だった。この頃から青空が広がってきて最後の登りに勢いが付く。アザミが咲いていてうっかり手を触れて痛かった。滑りやすい赤土の急坂を一歩一歩登って、国観峠からの道を併せ、やがて祖母山頂上に着いた。
山頂は適当な広さがあり一部に背丈を超える灌木も茂っているがおおむね展望は開けている。阿蘇山は木の間から覗くことになるが、九重山はよく見えた。足下から急激に落ちて行く天狗岩から障子岳へ、東に向きを変えて古祖母山、本谷山、傾山と緑濃い山稜が延々と続いている。祖母山は阿蘇とは違って深い森の中にある。山頂の一角に腰を下ろしてラーメンを作った。紅茶と缶詰のデザートも付けて満腹する。続々と人が登ってきて十数名が写真を撮ったり食事をしている。中には缶ビールで乾杯し、焼き肉を頬張っているグループもいた。ビールを冷やした状態で山頂迄運んできた努力には感心する。みなそれぞれの流儀で山を楽しんでいる。私たちも今回の山行で一番ハードな祖母山に登れた喜びをしみじみと味わっていた。
下山路は厳しそうな岩場が見える黒金尾根コースは諦め、来た道を引き返す。秋というより真夏に近い暑さだったが、さほど消耗することなく順調に下山した。宮原まで1ピッチ。次のサマン谷で顔を洗い、最後のピッチを名残惜しげに歩き、吊橋が見えてきた。エメラルド色の淵が美しい川上渓谷を渡り、駐車場に着いた。
ロードマップを見ながら大分の筋湯温泉に向かう。奧岳川に沿って下って行くが緒方までが予想以上に遠かった。冷たい飲料を飲みたかったがくねくね曲がった道を走れど走れど売店も自販機も現れなかった。相当下った所でようやく自販機を見付け、コーラを飲んでようやく人心地ついた。至る所に彼岸花が咲いていた。これほど彼岸花が咲き誇る里は見たことがない。彼岸花の赤い色は何か凄絶である。緒方で国道に出てほっとした。竹田市内で道に迷ったが、国道57号線を経て久住方面の案内標識がある国道442号線に乗って一安心。土地勘のない所を走るのは神経を使う。Kさんも私も加齢のせいかロードマップの小さな字が見えないので苦労する。久住町に来てから右折か直進か迷ったが、そのまま直進。右側に九重山が見えてきた。赤松の並木、なだらかな草原、まことに広闊な高原である。車両も多くなり注意して走る。瀬の本で国道11号にはいり、大分方面に右折するが、案内標識にロードマップにある「やまなみハイウェイ」の表示がないので不安を感じながら登って行くと左に筋湯温泉の表示があった。やれやれとスピードを緩めて進むと、間もなく筋湯の温泉街があった。一際大きい6階建ての筋湯観光ホテルに到着した。
チェックインして新しくできたという「悠久の湯」に浸かった。透明な湯で肌がスベスベになった。夕食も満足水準で美味しく食べた。昨日は少し気分が悪くてアルコールを控えたが、今日は体調も回復したのでビールを2本開けて、Kさんと楽しく歓談した。
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川上渓谷にかかる登山口の吊り橋 |
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山頂は間近 |
祖母山山頂 |
久住山と九州本土最高峰の中岳へ
9月22日(月) ホテル 7:40 → 8:00 牧ノ戸峠駐車場 → 9:35 久住分かれ → 10:00 久住山 → 10:45 中岳 → 12:45 駐車場 → 13:10 筋湯観光ホテル 13:45 → 15:30 大分空港 ANA196便 18:00 → 19:30 羽田空港
夜中に雨の音がするので布団の中で「参ったな」と思った。うとうとしていると6時になった。障子を開けて外を見ると曇っているが雨は降っていない。雨の音だと思ったのは前を流れる川のせせらぎだった。途端に元気が出てきた。7時過ぎに支度をして1階ロビーに降り、精算を済ませて、7時半からの朝食を取った。卵2つの目玉焼きは例によってコレステロールを気にしてパス。
登山後に風呂を使わせてもらうことにして車で出発。長者原まで9Km、噴煙を上げる九重山が見えてくる。長者原から国道11号を牧ノ戸峠へ上り、峠の駐車場に車を止めた。今日は炊事用具を持たずに荷を軽くして登山開始。展望台まではコンクリートの遊歩道だ。展望台に出ると久住山の頭が見えてきた。沓掛山の岩場を越えると広い草原状の尾根に出る。緩やかな斜面を快調に飛ばし、2〜3のパーティーを追い越す。扇カ鼻の分岐を過ぎると左に壁のような星生山の尾根を見上げながら回廊のような平原を進む。西千里ケ浜である。中程迄進むと黒褐色の久住山が姿を現す。高層湿原状のイタドリ群生地もある。星生山の麓をトラバース気味に巻いて20〜30メートル下ると避難小屋のある盆地に出た。ここから久住分かれに登って休憩。久住分かれは右に久住山、直進で中岳、左に北千里ケ浜から法華院温泉への交差点になっている。腰を下ろしてパイナップルの缶詰とパンを食べる。向かい側の硫黄山の斜面からゴオーッという音を上げて激しく蒸気が噴き出している。噴気孔の周りは毒々しい黄色に染まっている。正に活火山である。
私たちはまず右へ久住山頂に向かった。砂礫帯を直登して苦もなく肩に出て、石のゴロゴロ重なった久住山頂に到達した。直前に着いた数人の中高年パーティーが山頂標識の回りにザックを建てかけ座り込んでいるので、山頂標識の写真が撮れない。三角点とか山頂標柱は登った証しに写真を撮るのが普通である。周りにザックを置いたり座り込むのはマナー違反だ。自分たちだけの山頂ではない。
結構混み合ってきたので久住分かれに引き返す。中岳が間近に見える。久住山より高い九州本土の最高峰だ。登らない手はない。深田さんは『日本百名山』で久住山(1788M)を九重連山の最高峰としているが、その後の再測量で中岳(1791M)が最高峰となっている。Kさんはそれほど最高峰に拘っていなかったが、「折角だから登りましょう」というと「それでは行くか」ということになった。久住分かれから天狗ケ城の鞍部を越えると御池が静かに波紋を浮かべていた。池の右側を回って天狗ケ城と中岳の鞍部に出て、中岳への岩の急斜面を一気に登って山頂に着いた。先着の1名が写真を撮っており、ちょっと離れた所で別のパーティーが食事をしていた。久住山に比べて至って静かな山頂だった。九州最後の休憩をミカンの缶詰で祝いながら山頂の展望を欲しいままにした。一昨日と昨日で登ってきた阿蘇山も祖母山もよく見えた。北の方には北千里ケ浜から法華院温泉、坊ガツル湿原と、その右に堂々とした大船山など九重山の北の部分が間近に望まれた。ミヤマキリシマの大群落がある平治岳や、学生時代に坊ガツル賛歌を歌いながら憧れていた坊ガツルにも行ってみたい。霞の中に秀麗なシルエットを見せている双耳峰の由布岳も魅力的だった。機会があったらもう一度来てみたい九重山だった。
思いを残しながらも十分満足して心も軽く下山した。九重山は明るくて楽しい山だ。西千里ケ浜では多くのハイカーと出合う。ノンストップで下りたが最後のコンクリートの遊歩道はきつかった。
駐車場で荷物をパッキングし、筋湯観光ホテルに向かう。ホテルの誰もいない「源氏の湯」にコンコンと湯が溢れている。広い浴槽に身体を沈めると無上の幸せを感じた。街着に着替え帰途に付く。由布岳を見ながら快適な「やまなみハイウェイ」を下り、別府を通って大分空港まで、1時間45分のドライブを楽しみ、レンタカーを返却した。空港のレストランで食事をしながら生ビールで乾杯した。
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硫黄山山腹から噴気 |
九重連山最高峰の中岳 |
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