43年ぶりに思いを叶えた常念岳

(2005年9月)

常念岳 槍穂稜線
常念乗越より常念岳 常念乗越より槍穂の稜線を望む

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常念岳は学生時代から憧れの山だった

 常念岳は学生時代から憧憬の山だった。1962年に槍穂を縦走したとき、大キレットのナイフリッジを攀じ登っている途次、ふと見上げた常念岳の優美な姿に目を奪われた。翌朝、北穂小屋の窓から夜明けの雲海に浮かぶ常念岳は幻想的だった。私はその端正なピラミッド型の常念岳にいつか登ろうと心に決めていたが登る機会がないままに過ぎてきた。未踏の百名山が大分減ってきた頃、私はいっそのこと常念岳は百名山最後の山にしようと思った。そして2005年8月に99番目の幌尻岳に登り、続いて常念岳に登る計画を立てていた。ところが幌尻岳は現地まで行ったものの額平川が増水し登頂を断念せざるをえなかった。その結果、常念岳に先に登ることになった。
大キレットより常念岳 雲海常念岳
大キレットより常念岳(1962年10月) 雲海に浮かぶ常念岳(1962年10月)

頂上往復が意外にハードだった常念岳

9月26日(月) 自宅 4:20 → 8:50 ヒエ平駐車場 → 10:35 えぼし沢 → 11:50 左岸高巻き → 12:30 最後の水場 → 13:30 常念小屋 14:00 → 15:05 常念岳山頂 15:25 → 16:15 常念小屋
 ワンゲル仲間の飲み会で、会社をリタイアした仲間が山に行こうかという話になった。しこしこ「百名山」に登っていた私に企画が回され、これ幸いと常念岳に行くことにした。I君とO君が参加することになった。
 当日早朝私は自宅をマイカーで出発し、O氏、I氏をピックアップし、中央高速、長野自動車道経由で豊科ICで高速を下り、安曇野を横切ってゴルフ場の横を通って、一ノ沢林道にはいった。登山口手前のヒエ平駐車場に着いた。私は9月にはいってから原因不明の体調不良が続いていたので、みんなに体調が悪化したら途中で引き返すこともあると断りをいれてから登山の支度をした。
 林道を15分ほど歩くと登山口だった。一ノ沢左岸の樹林の中を緩やかに登る。3ピッチほど歩くと、左岸を高捲くように急登する。胸突八丁という所らしい。しばらく登り続けると、ガラガラ石で敷き詰められた一ノ沢の河原に降り立った。源流に近く流れはせせらぎのようになっている。ここが最後の水場なので休憩した。
 山腹に取り付き樹林の中を小1時間登ると、森林限界の小灌木の間に常念岳がぬっと現れた。砂礫帯を一歩一歩刻み、常念乗越に到着すると眼前に行雲たゆたう中に槍穂の稜線が見え隠れしていた。乗越の梓川よりにかなり大きな常念小屋があった。
 先ずは小屋にはいって個室に荷を解いて休憩した。私は特に気分が悪くなることもなく登れてほっとした。まだ時間もあるので今日中に頂上を往復することにした。
 常念乗越から見上げると常念岳は意外に急斜面だった。想像していたようななだらかな山とは大違いだった。トップに立ったI君は快調に登ってゆく。体調不安のうえ不整脈のおそれもある私は、あまり心拍数を上げたくないので、少しペースを落としてくれと頼む。風邪気味のO君も同調。「そんなに速いか?」といいながらもI君はペースを緩めた。空身というのに心臓バクバク、足がやたらに重い。1時間以上苦闘して何とか頂上に辿り着いた。
 頂上は案外狭く、その一部を賽銭箱が占拠している。あいにく穂高は雲に隠れていた。槍ヶ岳の頂上が丁度雲の切れ目に見えた。見慣れた形状とはちょっと違って、左右対称ではなく、槍の穂というよりは、海面を切って進むサメの背びれのように見えた。
 私は私たちだけしかいない静かな山頂で、43年ぶりに初恋の人に会ったような満足感を味わっていた。
山頂にて 表銀座
常念岳山頂にて(我が岳友) 常念岳より表銀座を望む
穂高 槍ヶ岳
常念岳より穂高を望む 常念岳より槍ヶ岳を望む

朝焼けに輝く槍穂の壁に影常念が

9月27日(火) 常念小屋 6:40 → 7:00 水場 → 8:50 大滝ベンチ → 9:35 登山口 → 9:50 ヒエ平駐車場 9:20 → 10:30 ホリデー湯 11:15 → 自宅
 ご来光を見ようと小屋を出て、常念乗越で日の出を待った。荘厳な夜明けではあったが、地平に横たわる薄雲に邪魔され明瞭度は今ひとつだった。それでも10数人が顔を真っ赤に染めてご来光を眺めていた。振り返ればモルゲンロートに染まる槍穂の稜線が素晴らしかった。常念岳の影が中岳と南岳の間にくっきりと浮かぶ。常念の肩が邪魔して北穂より南が見えないのがまことに残念だった。夜間の冷気が雲海となって谷間を埋めている。43年前に北穂小屋から雲海に浮かぶ常念を見たときの感動を想い出していた。びっしりと谷間を埋めた雲海は雪原のように平らで、常念まで歩いて渡れそうな錯覚を覚えたものだった。今日はあの時の丁度反対側から北穂を眺めている。やり残したことを終えたような気がした。
 朝食後、下山。本日はO君がトップになる。昨日の登りではI君のペースが速すぎると私に同調していたので大いに期待したが、案に相違してスタスタと飛ばす。最近私は膝を痛めないようにゆっくり下ることにしているので当てが外れた。両手用のストックを最大限に使って膝へのショックを和らげつつ必死に後を追う。まったく60歳を越えたというのに元気なものだ。一ノ沢まで下って休憩。
 それから先は私がトップになって、ようやく私の「正常」なペースに戻って気分良く下る。
 車に戻り、近くの温泉施設「ホリデーゆ」に立ち寄り、さっぱりと汗を流して帰京。
 胃がむかむかして倦怠感に襲われるという体調だったが何とか登ることができた。それにしても昔の仲間がみな達者なのに驚かされた。
槍穂遠望 雲海の常念岳
常念乗越よりキレットを望む 常念乗越より槍ヶ岳を望む
槍穂遠望 雲海の常念岳
常念乗越にて 常念乗越より槍ヶ岳を望む

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